乘舩寺庫裡新築工事

KYLYN 建築設計室として初の仕事が一段落した。庫裡(くり)とはお寺の住宅の事である。
9/26に完成検査をやり、手直し工事も完了し、9/30に無事引渡しを終えた。
引渡しの時に、デジカメで何枚か写真を撮って来たので、解説も含めてご報告しよう。
この住宅は「コンクリート蓄熱床暖房」「高断熱・高気密」「24時間システム換気」と言った、
住宅の基本性能、それだけはたっぷり自慢の出来る住宅であ〜る。
意匠的に見せるディテール?・・・、その辺はちょっぴり大目に見て欲しい。

 建築概要
構造・規模 木造2階建て
床面積 1階-216.96m2、2階-131.67m2、合計-348.63m2(105.46坪)
建築面積 257.75m2(77.97坪)
最高の高さ 10.4m
最高の軒高 7.95m
用途地域 第一種住居地域及び第一種中高層住居専用地域
防火地域 指定なし



 正面東側からの外観である。
 雪国建築は屋根雪の処理が大いに問題となる。
 木造なので耐雪構造にするのはちょっと難しい。
 積雪1.5m の耐雪構造にはしているのだが、
 基本的には屋根勾配を上げて自然落雪としている。
 落ちた雪が家の周りに積もるので、1階FLはGL+1,300mmとしている。
 もっと上げてもイイのだが、上げればイイってものでもない。


 これは南側のテラスだ。
 踏み石は設計では「自然石加工」となっていたのだが、
 石屋さんが重さ500〜600kgもある「白御影石」を置いてくれた。
 床の仕上は只のモルタルだったのだが、材料のバランスが悪いので、
 左官屋さんが「伊勢砂利の洗い出し」にして差し上げた。
 一つの物だけグレードを上げても、それ単品では活かされないものだ。
 だからとて、その場所だけ上げても、建物全体が上がる訳でもない。


 これは玄関の格天井を下から見上げた・・・
 なかなか目の細かいケヤキの天井板である。と言っても無垢ではなく合板だ。
 格縁は杉だったのだが、大工さんがヒノキの格縁にしてくれた。
 当初、建材屋さんが持って来たケヤキは目の荒い、いかにも安物だった。
 『もっとイイ目にして欲しい』と言ったら、こんなイイのを持って来てくれた。
 たまにはわかった様なフリをしてみるものである。
 あるんだったら最初から持って来いよな〜、って気がしないでもない。


 居間から台所の方を見たところ。
 カウンターの造り付け収納家具は、若奥さんのデザインである。
 木目調がイイと言う事で、本体がナラの練り付け合板で、
 甲板はランバーコアに石目調のメラミン貼りである。
 甲板をコーリアンですれば? 全ては予算次第であ〜る。
 こう言う家具は、後で『使い勝手が悪い』などと言われがちなので、
 使う人にデザインして貰うと、余り文句を言われなくて済むのだ。


 2階へは居間から直接上がって行く階段にしている。
 1階も2階もなるべく廊下を少なくして、居間のスペースを大きくしている。
 広々スッキリ使えて気持ちが良い。
 全館床暖房と言う事もあり、間仕切りも建具も少ない方が良い。
 建具は極力引き込み式とし、冬期間でも建具は開け放しで使える。
 当然だが、建具や間仕切りが全くいらないと言う訳ではないので、
 必要な所にはちゃ〜んと付けてある。


 ちょっぴり暗い中廊下・・・
 中廊下を造ると、どうしてもこう言う暗い所が出てくる。
 奥が片廊下で、採光と換気を取れるのがせめてもの救いだ。
 奥の扉はスエーデン製の断熱ドアで、本堂への渡り廊下との仕切りである。
 こちらは冬でもTシャツで過ごせるが、むこうはそうもいかない。
 内部結露を起こす可能性もあるので、しっかり断熱して間仕切りしてある。
 低燃費な全館床暖房には、高断熱・高気密と24時間システム換気が必要なのだ。
 因に気密試験の結果は、1.4cm2/m2でなかなか高気密な施工であった。


 居間から茶の間を通して上段を見たところ。
 特にこれと言ったものはない。ただ、上段と茶の間は真壁の和室である。
 他の和室(茶の間2、寝室、老人室)は、大壁の和室にしている。
 なぜなら、それは予算の関係であり、3部屋を真壁から大壁にする事で、
 造作材が構造下地材となり、木材費がなんと100万も安くなったのだ!
 大壁の和室と言っても、壁はちゃ〜んとジュラク壁でクロスなどではない。
 一応、Mac & DUCATI ITO!は左官屋でもあるのだ・・・


 これは茶の間の吹抜である。何で和室に吹抜なの?
 茶の間の周りは上段、玄関ホール、居間、中廊下と言う訳で外窓がない。
 採光・換気の為の苦肉の策である。もちろんオペレーターで開閉する。
 8帖のうち6帖分を吹抜にしているのだが、たまにこんな空間があってもイイ。
 吹抜用に選んだ提灯照明だが、予想以上に現物が大きかった。
 カタログで簡単に選ぶものではないと反省点も残るが、これも又イイだろう。
 もちろん電球交換用の昇降装置付きである。


 居間から茶の間2を見たところ。
 間仕切りの建具は引き込み式で、常にオープンにして使う。
 別に建具など無くても良いと思ったのだが、
 建て主から、何かあれば建具で仕切る様にしたいと言うのでそうした。
 確かに無いよりはあった方がイイとは思うのだが、
 どのくらいの頻度で仕切るのだろう? 殆ど仕切らない様な気がする。
 まあ私が心配する様な事ではないのだが・・・


 これは老人室のトイレとクローゼットである。
 老人室は東南に面し縁側もあり、専用トイレにクローゼットまで装備だ。
 この住宅の中で一番環境的にも設備的にもリッチな部屋かもしれない。
 この部屋は基本的には和室なのだが、ベッドで就寝していると言う事で、
 床はフローリングにしてある。
 もちろん全館バリアフリーで、お年寄りに優しい住宅は言うまでもない。

24時間システム換気

 左が24時間システム換気(エアロバーコ)の吸気口で、右が排気口である。
 吸気口は80mmと100mmのタイプがあり、1・2階全体で10ケ所ある。
 外気の取り入れは、外壁の通気層から取り込んで、直接外気からは取り込まない。

 排気口は1・2階全体で13ケ所あり、ダクトで1階洗濯乾燥室の天井裏にある本体に繋がっている。
 建材などから出るホルムアルデヒドは、これで24時間換気してしまおうと言う考えだ。
 他に台所と浴室それと煙草を吸う部屋には、専用の給排気同時熱交換型の換気扇を付けている。
 エアロバーコの給排気バランスを壊さずに、局所的な強制換気をする為である。



 洗濯乾燥室の風景。ちょっとした機械室である。
 40,000kcal/hの給湯用ボイラーと31,000kcal/hの床暖用ボイラー、
 それと床暖ヘッダーに膨張タンク、その他諸々がある。
 冬期間は2台のボイラーが、かな〜りの熱を放出する。
 その放出された熱を利用しない手は無い・・・
 部屋を大きめに取り、洗濯乾燥室として使うのが一般的な利用である。
 真冬でも、ここだけは「冬しらず」って場所なのだ。


 住宅にもかかわらず、なぜか非常警報設備がある。
 本堂と渡り廊下で繋がるので、住宅と言えども只の住宅ではないのだ。
 消防署に打合せに行った所、別棟扱いなので警報設備まではいらないが、
 警報ベルだけは、庫裡の方でも鳴る様に付けてくれと言われた。
 建築基準法や消防法とは、守るべき「最低の基準」である・・・
 庫裡で押せば本堂でも鳴る様に、ベルでなく警報設備にしてあげた。


 これがこの家の分電盤で42回路ある。予備も含めれば46回路である。
 回路の上には、庫裡部分専用の電力小メーターもあるのだが、
 カメラのファインダーに納まらなかった。やはり広角のレンズが欲しい。
 物置の一部がこの「ザ・分電盤!」である。只それを言いたかった。

 一番上の赤いストッパーが付いた回路が非常警報設備の回路で、
 漏電火災警報が作動しても、この回路だけは電気が切れないらしい。
 当り前と言えば当たり前なのだが、非常警報は漏電火災警報よりも偉いのだ。
 電気屋さんにそう説明を受け、なるほどと感心する無知な設計屋であった・・・


 以上、Mac & DUCATI ITO!の「お笑い建築講座」でした。


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