漆喰左官 〜86歳の仕事〜



我が家の現代の名工(伊藤富夫さん)の最後の漆喰仕事

去年、伊藤左官店の建設業許可(更新)に合わせて、代表が私に代わりました。
伊藤左官店は個人事業所なので、伊藤富夫さんの廃業及び私の建設業許可(新規)だと思っていましたが、
伊藤富夫さんから私(伊藤 豊)へ、建設業許可の「譲渡及び譲受けの認可」で済みました。
と言う訳で、我が家の現代の名工(伊藤富夫さん、86歳)の最後の漆喰仕事の紹介です。


以前(2006年)に、銀山温泉・古勢起屋別館の漆喰戸袋改修の仕事を紹介しました。
その古勢起屋の新館(2軒隣)の改修工事の現場があり、漆喰戸袋(新設)の仕事がありました。
戸袋の改修でなく一から製作で、16年前と違って親父さんも高齢です。出来るのか?
本人に確認すると『別館をやったので本館もやりたい』との事で、本人はやる気満々だった。
本人にやる気があるのであれば、仕事を受けるしかあるまい。

  
古勢起屋本館の漆喰鏝絵
(施工図:伊藤左官店)


去年から入っている左官現場(古勢起屋本館改修工事)で、残っている仕事が、戸袋の漆喰鏝絵(新設)です。
原画は絵師の人が描いた「松島の日の出」の様です。銀山なのに松島?って突っ込みはやめて置きましょう。
雪国の漆喰工事は、気温がマイナスに成る冬季間は出来ないので、製作は春(4月以降)って事で残っていた。
尚、現場で製作ではなく、作業場で製作した戸袋を現場に納めて、取り付けは大工さんヨロシクって仕事です。
我が家の現代の名工(伊藤富夫さん、86歳)に、毎日現場(銀山)に行って、3階の外部作業などさせられません。
製作期間:見積り作業人工は約 50人工、土日も休まず 50日掛かります。現場には最低 2ヶ月と申して置きました。

   

鏝絵の下地(木枠)が 4月10日に来て、あれから 2ヶ月・・・
いよいよ完成間近です。頑張りましたね、親父さん。
手が痛いとか、足が痛いとか、文句を言いながら作業していました。
親父さんにとって、今回が最後の漆喰仕事と言えるでしょう。
私から見ても、腕が落ちているなと感じました。
次に同様の漆喰仕事が来ても、丁重にお断りするつもりです。
趣味の漆喰鏝絵なら、大いにやって下さい。

 

上段(小)漆喰文字と家紋(821×211mm)
これは割と簡単に、直ぐに作り終えました。
こう言うのは、割と得意な伊藤富夫さんです。

  下段(大)漆喰鏝絵(821×1,245mm)
大変なのはこっちの方です。モノクロでなくカラーです。
島と五大堂と松と舟と雲は、色漆喰で盛り上げていますが、
平らな部分(海と空)は、絵の具で塗りました。
色漆喰に使う色粉(バイエル、バイフェロックス)ではなく、
さて、何の絵の具で塗ったでしょう?
  鏝絵の左下に、こっそり「富」の字を入れています。
漆喰を彫刻刀で削った、伊藤富夫さんの sign(署名)です。
このままでは目立つので、海の色で塗って目立たなくしました。
削っているので、見ればハッキリ分かります。
でも、言われないと気付かない、隠しサインです。
 

現場では「こんな感じ」に取り付けられるって事で、
立てて上下に重ねてみました。
重量は、上が 15kgくらい、下は 70〜80kg あります。
2ヶ月掛けて作った物を、嫁に出す気分です。

後半、平らな部分(海と空)の色塗りを、私も手伝いました。
私は昔、山形工業高校 絵画部で油絵を描いていたもので・・・
小学校(図工)中学校(美術)の成績は「5」だったもので・・・
海と空の gradation(濃淡)は、私の方が上手い。

no image   鏝絵完成後、黒漆喰の額縁に白化防止剤を塗って、
絵には UVカットコーティングを施しました。最終工程です。
黄色とかの薄い色は、色が飛び易いと言います。
4〜5年は大丈夫でしょう。それ以降は「経年劣化」ですね。
漆喰の方は、15〜20年は大丈夫だと思います。
銀山なので「凍害」も起きるでしょうけどね。
10〜15年くらいで、メンテナンスしてくれれば長持ちします。
  2022年 6月21日
製作者:伊藤富夫さんと、銀山の現場に納入して来ました。
親父さんと二人じゃ持てません。現場の職人 2人と 4人掛かりです。
伊藤左官店は現場搬入まで、後は大工さんのお仕事です。
3階の戸袋に取り付けるので、落ちて来ない様にしっかり固定するべし。
その辺は、左官屋の責任の範疇でないのでヨロシク!
  3階の正面左角の戸袋に、この鏝絵が取り付く予定です。
2階の既存戸袋(黒地に白文字)の真上です。
2階の既存戸袋ですが、ハッキリ言ってボロボロです。バキッ!/(>_<;)
部分補修は無理、全面改修(作り直し)の方が早いですね。
ここは「7月1日オープン」らしく、急ピッチで準備中の様でした。


鏝絵を取り付ける前に、絵師さんがチェックに来て、鏝絵の右下に絵師さんのサインも入れるそうです。
元々原画にも右下に絵師のサインがあったんですけどね。絵師のサインは絵師本人が入れると言う事で・・・
現場に納入してから、鏝絵にあーだこーだ言われても困るので、製作中に絵師さんに一度見に来て欲しいと言ったのだが、
作業場で製作途中の写真を現場監督に LINE で送っていて、その写真を絵師さんにも見せていた様で、文句は無いらしい。
厚生労働大臣表彰(現代の名工)の仕事にケチを付けられるのは、身内の私くらいでしょうけど・・・
正直、私のダメ出しが多くて、この仕事のお陰で親子関係がギクシャク、犬猿の仲に成りました。
3階戸袋の鏝絵が付いて、外部足場が無くなったら、親父さんを連れて改めて見に来ようと思います。

本館古勢起屋 https://www.kosekikan.com





「土用の丑の日」と言えば、日本人は鰻(うなぎ)ですね。
土用の丑の日は「う」の付く物を食べるのが良いとされています。
鰻、梅干し、うどん、瓜(きゅうり、すいか)、鰻だけとは限らない。牛も「う」ですから・・・
夏バテや熱中症予防なら、リポビタンとかアリナミンとかユンケルの方が効きそうな気もします。
今年(2022年)の土用の丑の日ですが、夏は 7月23日と 8月4日の 2回あるらしいです。
1年置きくらいに 2回の年がある様で、7月23日(一の丑)、8月4日(二の丑)と言う。

・春の土用の丑には「い」の付く物を食べる。(五月病対策)
・夏の土用の丑には「う」の付く物を食べる。(夏バテや熱中症対策)
・秋の土用の丑には「た」の付く物を食べる。(疲れや老化対策)
・冬の土用の丑には「ひ」の付く物を食べる。(インフルエンザや風邪対策)

夏だけでなく、季節の変わり目は体調管理に気を付けなさいと言う、昔からの言い伝えなのでしょう。
「い・う・た・ひ」の付く食べ物に関しては、その季節の食材を検索しください。ググれ!

  
某うなぎ屋の漆喰看板
(施工図:伊藤左官店)


先月(6月21日)、銀山温泉の漆喰鏝絵の仕事を報告しましたが、これは 7月の漆喰仕事です。
漆喰仕事がそう度々ある訳ではありません。今年はたまたまです。
今年の 2月に、飛び込みで仕事の依頼が来まして、親父さんが出来ると言うので仕事の依頼を受けました。
建設会社や設計事務所からの依頼ではなく、天童温泉の某有名旅館の社長さん直々の依頼でした。
但し、銀山温泉の漆喰鏝絵の仕事が 4月から 2カ月くらい掛かるので、その後って事で・・・
尚、看板のデザインは東京のデザイン事務所がデザインした物の様です。

3月に設計図(施工図?)を描いて、チェックを受けて修正して、3月12日の図面で決定、あれから 3カ月・・・
6月21日に銀山温泉の漆喰鏝絵を納入して、やっと、うなぎ屋の漆喰看板に取り掛かりますと連絡を入れた。
お待たせして誠に申し訳ありませんが、納期は 1カ月くらい見て頂きたいって事で・・・
我が家の現代の名工(伊藤富夫さん)だが、引き続きの仕事で体力的に大丈夫なのか?
心配御無用、銀山温泉の漆喰鏝絵の後半(海と空の色塗り)は、殆ど私がやっていましたので・・・
その間、親父さんは看板のラスモルタル下塗り、砂漆喰中塗り、白漆喰上塗りまでを終わらせていました。
親父さんも 86歳なので、昔の様に丸一日は働けません。働く気も有りません。
半日働いたら、半日はグランドゴルフって感じです。漆喰は固まるのに時間が掛かるので丁度イイかもね。

 

白漆喰に色漆喰を盛り上げる前、分かり難いかもしれませんが、
写した文字とマークの輪郭その他を、彫刻刀で削っています。
盛り上げる色漆喰が取れ難い様にです。
漆喰の接着面積が多ければ、それだけ漆喰が剥がれ難い。

   
最初に文字の方を色漆喰(黒)で盛り上げる。
漆喰と色粉(バイエル、バイフェロックス)で練った材料です。
親父さん、相変わらずササッと作りますね。
 

文字(勘治郎)完了! 問題は店のマークの方です。
稲穂をイメージした粒(73個)、他にも細かいパーツが多い。
文字より店のマークの方が、細かくて面倒です。
親父さんは簡単みたいな事を言うが、私はそうは思わない。

no image   稲穂(73粒)を作っていた親父さんに、私がダメ出しをすると、
だったら「米粒はお前がやれ」と言われました。
銀山温泉の時も「海と空の色が違う」とダメ出しをしたら、
「だったらお前がやれ」と言われ、私が海と空を塗る事に・・・
deja-vu(既知感)を感じました。
 

一発勝負は、流石に私も自信が無い。出来る気がしない。
と言う事で、原寸画の上にアクリル板を敷いて、その上で練習・・・
これを 2回やって 3回目が本番、何とか上手く出来ました。
一発勝負でやっていたら、とんでもない事に成っていました。

 

文字より面倒だった店のマークも出来上がりました。
尚、この稲穂(73粒)は私がやりましたよ。
細かい作業は、親父さんよりも私の方が上手い。バキッ!/(>_<;)

  漆喰に白化防止剤を塗って、木枠の養生テープを剥がして完成です。
白化防止剤には、白化防止・防カビ・撥水効果がある。
店のマークが金色なので、最後に金色の塗料で塗る予定でしたが、
漆喰と色粉(黄土色)で作った色漆喰の色が、何だか金色っぽい。
左官屋はペンキ屋じゃないので、金色の塗装は無しとした。
 

某うなぎ屋の漆喰看板と伊藤富夫さん

何度も申しますが、稲穂(73粒)は私が作りました。
この看板を見る機会がありましたら、
是非、稲穂(73粒)に注目して頂きたい。

銀山温泉の漆喰鏝絵が、親父さんの最後の漆喰仕事と申しましたが、
コレが本当の最後の漆喰仕事です。お疲れ様でした。
今後は、趣味の漆喰鏝絵を大いにやって下さい。
ボケ防止には打って付けでしょう。

  プチプチシートで 2重巻きにして、納品準備完了!
7月24日、漆喰看板を天童温泉の某有名旅館に納品して来ました。
旅館の社長さんも喜んでくれました。
途中経過を、メール(写真)で報告していましたけどね。


土用の丑の日、7月23日(一の丑)には間に合いませんでしたが、今年は 8月4日(二の丑)もあります。
伊藤左官店は納品まで、看板の取り付けは大工さん工事です。看板の上下にアングルで固定する設計です。
今回の取付場所は雨や雪の掛からない屋根の下なので、風化や凍害に対しては安心ですが、
心配なのは、看板の取付場所が人が触れる場所(位置)なのです。風化や凍害よりも、いたずらされる方が心配です。
本来であれば、人の手の届かない場所(高さ)に取り付けるのが理想的です。今迄はそうでした。
恐らく、1年以内に何かが取れたと連絡が来そうな気がします。その時は、私が修理に行きましょう。
銀山温泉とうなぎ屋の漆喰仕事を手伝って、修理なら私でも出来る自信があります。キリッ

うなぎ勘治郎 https://tendoso.jp/k_plan/index2022_04c.html


以上、伊藤富夫さん(86歳)の最後の漆喰仕事(2つ)でした。ご苦労様でした。
2022年 6月と 7月の今日の出来事を、2023年 8月に纏めましたとさ。

漆喰左官 〜86歳の仕事〜(2022.07.24)
報告(2023.08.10)


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