2、有病者の歯科治療について
●有病者の歯科治療とは
大きくわけて次の項目があげられます。
1、治療前に健常者なのか、有病者なのかを判断すること。
2、今から行う歯科治療の障害となる全身疾患なのか。
3、訪問歯科診療なのか、来院できるのか。
4、全身疾患の症状の一部が口の中にあらわれたのか。
5、感染症患者なのか。
6、全身疾患の程度・種類に応じた検査・主治医対診・歯科治療法の選択・投薬・モニタリング・治療後の指導。となります。
社会情勢の複雑さや高齢化にともない、全身的疾病背景が複雑増多し、全く健康な方の歯科受診はあり得ないといわれるほど、循環器疾患や癌等のいわゆる
成人病をはじめ、アレルギー、多種の投薬を受けている方、メンタル的な問題を持った方等の来院が増加しております。有病者の中でも、その基礎疾患のため歯
科処置に直接困難をきたす場合や、薬の飲みあわせ、アレルギー、術後出血等で全身疾患と間接的に問題がある場合、肝炎等の感染症患者の滅菌消毒対策、さら
には、全身疾患の症状の一部として口腔内に症状が現れる疾患、例えば白血病の初期には歯ぐき等からの出血がみられ、もとの疾患を治さなければ口の中もなお
らないもの等があります。また、顎関節症の一部や自己臭などの口腔心身症を含めたメンタルな面での治療が必要なものもあります。
実際の治療では、歯科医療は内科等と違い、歯を抜いたり、痲酔をして歯を削ったりする、処置や手術中心の医療であることです。歯を抜くときの恐怖心や出
血、歯を削るときの痛みや、機械の振動等は、患者さんにとって相当つらいもので、健康な人でも歯科診療は意外に心理的、肉体的侵襲が大きいものなのです。
ですから、有病者については一層の注意が必要となります。
●一般の歯科治療とちがう点
最近の傾向では、有病者と健常者の境界が非常にあいまいになってきおり、通常の歯科治療ができるのかどうか判断するのが、ポイントとなりますが、すべての人が有病者であるとの前提に立つと、原則的には一般の歯科治療とは何も違いはありません。
強いていえば有病状態の種類や程度を判断し、むし歯の治療なのか、歯周病の手術なのか、歯を抜くのか等、これから予定された処置に応じて、あらかじめ内
科かかりつけ医等の指示をあおぐのか、大学病院等に紹介するのか、休薬や追加投薬の必要があるか、また血液検査や、処置中の循環動態のモニターや鎮静法や
投薬の必要性があるかどうかを判断することにあります。
●主にどのような疾患が多いか
本院のデータでは、1986年
から1992年までの7年間に来院した初診患者のうち、なんらかの全身疾患を持った患者、1799症例の疾患別割合は、心臓疾患や高血圧等のいわゆる循環
器疾患者が35%、次いで消化器系疾患21.2%となっており、高血圧に関連した循環器疾患者が一番多かったことより、有病者の歯科治療に際しては血圧測
定や、酸素飽和度の測定等、循環器に関連した考慮が大事となります。
●有病者歯科診察の流れ
有病者なのか健常者なのか、そして、どんな疾病で、どの程度なのかを判断するところから始まります。来院される時どんな風にいらしたか、
待ち合い室ではどんな態度であったか、付き添いは居るか等、スタッフから報告を受けるところから始まります。また、最後は帰宅までを治療と考え、ケースに
よっては、帰宅後お電話をいただき状態を聞く等して、注意深く観察します。帰りは徒歩なのか、バスなのか、自分で車を運転するのか、タクシーを呼ぶのか、
家族の迎えを待つのか、また、家に家族はいるのか等により処置全体が変わることもあります。
診療では血圧・脈拍等の測定をし、問診では特に全身的な病気について詳しくお尋ねします。いつからどんな病気で、どんな経過で、現在はどうか、主治医の
名前、服用しているお薬の提示、検査結果、等についてお聞きします。その結果、必要に応じ内科主治医への対診・加療、血液検査、病院歯科への紹介等をしま
す。高齢者、小児等で十分なインフォームドコンセントが得られない場合は、必ず付き添いの方と一緒にお話をうかがいます。
処置に際しては、必要に応じて前投薬、術中連続の血圧・脈拍・酸素飽和度モニター、笑気鎮静法、を行い、場合によっては、点滴等救急処置の準備をしておきます。
処置後は、治療による変調がないかどうか治療台で少し休んでいただき、変化なければ待合室に戻っていただきます。投薬では、飲み合わせの問題から、必ず現在飲んでいるお薬をお聞きし処方します。止血の状態を確認し、歩行状態を見ながら帰宅させます。
●他の病院との連携
現在加療中の全身疾患等については内科主治医に積極的に対診し現在の状態について情報をいただき、処置方針の参考にします。その中でも特に困難な症例では大学付属病院口腔外科、総合病院口腔外科等と連絡を密にし、時には入院・手術等をお願いします。
●インフォームドコンセントの実施について
必要な方には十分に、そうでない方には、分かりやすいように要点のみをお話します。
意味のない専門的な御質問を連発される方もおりますが、心に問題があるのか、世間話なのか、その人の真意を探り、診療の参考にします。
●有病者が治療を受ける際のアドバイス
体調の良い時に来院して下さい。
毎日のお薬は指示ある時以外は飲んできて下さい。
薬剤アレルギーがあれば薬剤名を正確にお伝えください。
過去にかかったことのある病気、現在かかっている病名、薬の名前(できれば薬か、薬剤情報提供用紙を持っていく)、病院名、主治医名、入院期間、手術時期、日常生活上の制限事項等をお聞きしますので、とにかく正直にお答えいただければ結構です。
●その他
最後に、有病者と関係のある事項として、何らかの理由で寝たきりになり歯科受診等が出来ない方を対象にした訪問歯科診療(在宅寝たきり
者、施設入所者、入院中)があります。本院では積極的に在宅訪問診療を行っており、各種歯科治療道具一式をを携帯し訪問先で診療を行います。多くの寝たき
り者の口腔内のケアはなおざりにされがちですが、口から自分で咬んで食事をするということは、健常者の我々が考えているより以上に重要なことで、疾病事体
のリハビリになるといわれています。また、口腔ケアをすることにより口中の細菌を減らし誤嚥による肺炎等の合併症を少なくする効果があります。今後高齢化
を迎えるに当たりさらに重要な部門となります。
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