職域における歯科健診は、その必要性の議論がなされる時、ただ検診をしただけの場合が多く、その結果がうまく活かされてないことが多いようです。 働く人たちの総合的な健康を考える場合、むし歯や歯周疾患について、どうしても健診中心の口腔内だけの問題としてのみ考えがちで、働く人たちの口腔衛生 を、内科的一般所見や仕事の内容等を考慮した産業歯科は、まだ十分に行われていないように思われます。
事業例
私達が、某社健康保険組合員に対して行っている事業の一つである、「おしどり健診」受診者を対象に歯科健診項目について、作業内容や、一般所見の有無で比較しその関連性について整理しました。
おしどり健診とは、配偶者と供にペアで行われる、歯科健診を含む人間ドッグで、40才から45才、50才、の節目と50才以上は毎年行われるもののうち、重複者を除いた、平成5年から8年までの4年間の初回受診分の男性358名について調べました。
職務別の人数は、バス運転手が一番多く163名、ついでタクシー運転手51名、監督職48名、管理職45名となっております。地区・営業所別人数 は、県内陸部に広く分布しておりますが、山形市を中心とする都市部営業所勤務者は157名、それ以外の地方営業所は182人でした。
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図2は、おしどり健診受診者のう蝕の状況を示してあります。う蝕の状況は上の平成5年歯科疾患実態調査と比較し、40歳代では、あまり差は見られ ませんが、年齢が増す毎に、おしどり健診者の方が口腔内状況は良く、現在歯では40才で両方とも約26本で差は有りませんが、50才で22.9本に対しお しどり健診では26.6本、60才で17.1本に対し24.1本であり、健保組合員のう蝕に関する口腔内状況は良好であると言えます。各項目、赤は危険率 1%、青は5%で有意差が認められました。
図3はCPITN最大コードの集計です。日本労働衛生研究協議会が全国的に各層の労働者を調査した資料中のCPITNの状況と比較しましたが、おしどり健診との差はみられませんでした。

年齢別CPITNコードの内訳は図4のとおりで、50才代でコード3、4がやや多くなっていますが、年代間における統計学的差は有りませんでし た。このことは、健保組合員の歯周病は、40歳以降の歯周病の進行は比較的よく管理されている反面、すでに40歳以前よりの歯周病がみられ、入社早期より の対策が示唆されます。


図5ははおしどり健診者の一般所見のうち、内科的疾患の内訳を示したもので、高血圧が最も多く91例、ついで心電図有所見と胃要精検が79例でし た。心電図所見の詳細は図6のとおりですが、歯周疾患等炎症性疾患との関連が疑われている虚血性心疾患や、高血圧による変化が含まれています。


図7は何らかの内科的疾患を持つ群と、何ら内科的疾患が無い群との口腔内状況を比較したもので、内科的疾患無し群の方が喪失歯数が少なく、他は差が有りませんでした。
さらに(図8)、内科的疾患を、心臓と高血圧、高血糖、胃・大腸精検の3つのグループに分け、それぞれの因子における口腔内状況の関連をみると、 処置歯数については胃・大腸有所見者が、未処置歯数については高血糖者で、かつ胃・大腸有所見者群に関連が見られ、全体では歯の数に、個々の疾患について は、医療機関への受療行動に差が有るように思えます。

CPITNについては内科的疾患の有無との関連は、すべての疾患群で見られませんでした。


おしどり健診受診者を職務別、営業所地区別で口腔内状況との関連を見ますと、CPITNについては、どちらも関連は見られませんでしたが、未処置歯数については都市部の方が1.92本と高くなっており、受療行動の差が現れていると思われます。

以上、本健康保険組合員は、う蝕に関しては、よく管理されていますが、都市部では早期歯科受診を必要とし、歯周病に関しては40歳以前からの対策 の必要性が示唆されました。また、職務別の口腔疾患に差は見られませんでしたが、内科的疾患を持つものの方が喪失歯数が多いことより、口腔保健管理と併せ 内科的健康管理も連係して考える必要が有ると思われます。
冨田歯科医院(山形市)・Y健康保険組合*
冨田 滋 長岡美智 永沼祥子*
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